2.5じげん

漫画 小説 映画 オタク

精神安定剤としての村上春樹小説のススメ

この数ヶ月私は消耗していた。

理由は転職活動と婚活と旅行と家族の入院というイベントを平行して行っていたからだ。このうち一番精神的にきつかったのはオタク的婚活なのだが、これについては後日詳しく書きたいと思っている。

 

そんな私の精神的な消耗を救ってくれるものはいつでも2次元だ。

 

前回の消耗を救ってくれたのは某アイドルだったのだが、今回の消耗を救ってくれたのは村上春樹小説だった。村上春樹先生もまさかオタク婚活などという低次元なことに関する精神的疲労を癒すために自らの小説が利用されているとは夢にも思っていないだろう。だが、本当に今回私の心を救ってくれたので、どこかで婚活に疲れているあなたのために、精神安定剤としての村上春樹小説のススメを書きたい。

 

そもそも精神安定剤としての村上春樹小説

 

そもそも村上春樹小説は「精神安定剤」としてとても優れていると思う。

心の安定を崩した方が、セラピーの一貫として読んでいるという記事も何度か見た事がある。

 

なぜか、というと、単純に村上春樹小説は「穴に潜る」からだと思っている。

上小説の主人公は、皆自らの精神の深淵へと踏み込むような穴にもぐっていく。

そんな主人公達と一緒に穴に潜るうち、自分自身も自らの心の奥底へと潜って行くのだ。そして本を読み終わった後には主人公と共に何かを理解している。

小説の主人公達はあるものは現実に帰還し、帰還を選ばない者もいる。でも読み手である私たちは現実に戻るしか無いのだ。帰還を選ばなかった主人公の分も、生きて行こうと感じる。

もう1つ、村上小説はとても優しい。私は村上小説は基本的にすべてハッピーエンドだと思っている。そうは思わない人もいるだろう、でも私にとってはすべてハッピーエンドだ。だからとても安心した気持ちで読む事ができる。

 

 

おすすめの読み方

 

私はエッセイも含めほぼ全ての村上春樹作品を読んでいるが、初読、なおかつ癒しを求めているあなたにおすすめの読み方は「とにかく発表順に読む」ということだ。村上作品は全てどこかが大きくリンクしており、それはデビュー作から始まっている。そのリンクを感じることも、面白さの1つだ。

だから、絶対にノルウェイの森から、海辺のカフカからは読むな。絶対だぞ!!!と、とにかく声を大にして言いたい。

 

まずはデビュー作の「風の歌を聴け」から読んでみよう。

とても短いから簡単に読めるだろう。

そして、「風の歌を聴け」が全くあなたの琴線に触れる部分がなければ、あなたは今は村上春樹小説を必要としていないのだと思う。

他の癒しを探してみてほしい。

 

少しでも琴線に触れる部分があれば、次に「羊をめぐる冒険」を読もう。

(*発表順だと「1973年のピンボール」という短編だが、本を読む習慣が少ない人ならばとばしてもokだ。村上作品が好きになったら読んでほしい。本を読む事が苦にならない人なら、「1973年のピンボール」を読んでからがベターかと。)

 

羊をめぐる冒険」はとにかく面白い。「羊をめぐる冒険」を読んで、「穴に潜る」という感覚がどことなく理解できたなら、もしかして今貴方は村上春樹小説を必要としているかもしれない。

 

そしたら次に「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」だ。この作品を読む為に、私は「風の歌を聴け」を、「羊をめぐる冒険」を読んで来たのかと感じる。何度読んでも新しい発見がある小説だ。

 

ここまできたら、貴方は少し村上春樹世界の「僕」を好きになり始めているだろう。

 

しつこいようだが、全くあなたの琴線に触れる部分がなければ、あなたは今は村上春樹小説を必要としていないのだと思う。

 

私の見解では、ここまで読めば、少し順番から外れてもいいかと思う。

「羊男」にまた会いたくなったら次は「ダンスダンスダンス」を読むといいだろうし、更に深く穴に潜りたくなったら「ねじまき鳥クロニクル」は貴方を深い井戸に誘ってくれる。

そして、「ノルウェイの森」を読むと、これまで読んで来た村上作品とのいくつもの共通点、相違点に気付かされるはずだ。

 

 

精神安定剤としての村上春樹小説

 

ここまで発表順に作品をあげてきたが、私にとっての精神安定剤としての村上春樹小説は、この「ノルウェイの森」で終了する。

実のところこれ以降の作品を読んでも、私にとってはセラピーのような効果を得ることが出来ないのだ。琴線に触れないのである。

 

私が精神安定剤としての村上春樹小説を読む時は、「風の歌を聴け」から読み始める。そして「ノルウェイの森」を読み終わった頃には、ふと顔をあげ、「そうだ、私は自分の現実を生きないといけない」と感じる。セラピーが終わり、「現実に戻る力」を取り戻しているのだ。

 

 

海辺のカフカ」以降の長編は私にとっては穴に潜る事のできない小説である。

個人的な見解だが、「海辺のカフカ」以降の小説における暴力表現がどうしても受け入れられない部分があるからではないかと感じている。

 

でも、貴方にとっては違うかもしれない。海辺のカフカ」以降の長編こそが、貴方の癒しに繋がる小説かもしれない。琴線に触れるものがあるのであれば、ぜひすべての小説を発表順に読んでほしいと思う。